2024年春闘では「平均賃上げ率5.1%」という33年ぶりの高水準が発表されました。
一見、日本経済が好転しているかのように映りますが、この数字は大企業中心の“ごく一部”の話です。
中小企業の現場では、「賃上げどころか、人件費が払えない」「値上げできないから、削るしかない」といった声があふれています。
なぜこれほど乖離が生まれるのでしょうか?
この記事では、中小企業が賃上げできない構造的な理由を掘り下げて解説します。
目次
◆ 前提:中小企業が日本の雇用を支えている
- 日本企業の99.7%は中小企業(中小企業庁 2024年版中小企業白書)
- 雇用の約7割を中小企業が担っている
にもかかわらず、春闘や報道で語られるのは「上場企業」「製造業大手」「労働組合のある企業」が中心です。
◆ 中小企業が賃上げできない5つの根本要因
1. 価格転嫁ができない構造
- 大企業からの下請けで、価格決定権を持たない
- 材料費や人件費が上がっても、納入価格は据え置き
- 元請けに値上げ交渉しても、却下されやすい
📊 中小企業庁「価格転嫁円滑化調査(2024年3月)」によると、「十分に転嫁できた」企業は全体の13.3%
2. エネルギー・原材料コストの高騰
- 電気代・ガス代・輸送費などの固定費が高騰
- 小規模企業ほどスケールメリットが効かず、単価交渉力が弱い
📉 たとえば、帝国データバンクの調査では、約6割の中小企業が「コスト上昇を価格に転嫁できない」と回答
3. 人手不足と人件費の板挟み
- 賃上げしないと人が来ない、でも上げると赤字になる
- 離職が増えると教育コストがかさみ、さらに体力を削る悪循環
💬 日本商工会議所の中小企業景況調査(2023年)では、人手不足を「深刻」とする企業は全体の65%以上にのぼる
4. 労働生産性が上がらない
- デジタル化・効率化が進まず、人手作業に依存
- 特に建設・運輸・介護・小売など「低利益率業種」が多い
📊 日本生産性本部の2023年報告書によると、日本の中小企業の労働生産性は米国の約55〜60%水準
5. 内部留保や借入余力が乏しい
- コロナ期のゼロゼロ融資の返済が2023年から本格化
- 財務余力がなく、賞与や時給引き上げに踏み切れない企業が多い
📉 日本政策金融公庫の調査(2023年)では、借入金返済が今後の事業継続の障壁になると回答した中小企業は全体の47%
◆ 実態データとギャップ
🔻中小企業の賃上げ実施率(2024年)
- 賃上げを「実施済み or 実施予定」:74.3%
- そのうち「業績改善してないが賃上げ」:43.9%
📊 出典:労働政策研究・研修機構(JILPT)「中小企業の賃上げに関する分析」
◆ 本当に求められる支援とは?
- 大企業と中小企業の取引構造の見直し(公正取引委員会も下請Gメン制度で監視強化中)
- 人材育成やIT投資支援(経済産業省「IT導入補助金」など)
- 最低賃金補填の恒久支援制度の導入
◆ 結論:賃上げできないのは「努力不足」ではない
「賃上げ5.1%」という数字に希望を見出すのはいいことですが、それがすべてだと思ってしまうと、真の課題から目を背けてしまいます。
中小企業が賃上げできないのは、経済構造上の問題です。
それを「民間の努力不足」に矮小化すれば、日本経済の地盤沈下は止まりません。
▶ あなたにできること
- 自社の構造問題を把握する
- 取引関係の見直しを検討する
- 政策支援の活用と、声を上げること
中小企業が元気でなければ、日本全体の賃金水準は上がりません。
“幻想の平均”ではなく、“現実の中央値”に目を向ける時です。
コメント